技術の継承
数年前のことですが、年配のお父さんが、娘さんに伴われて、ご来店くださいました。
冊子を作りたいとおっしゃいますので、内容を伺いましたら、和菓子のレシピとのことでした。
長年、和菓子屋さんを営んでこられたそうですが、跡継ぎがおらず、近々、廃業されるそうです。
ただ、これまで自分で作ってきたお菓子が、この世から消えてしまうのが悲しいので、冊子にして、心当たりに配ろうと思われたそうです。
ご来店の一番の目的は、「原稿になるようなものが無いから、どうやって原稿を作ればよいか、教えて欲しい」ということでした。
参考にと、大学ノートに書かれたレシピを見せていただきましたが、職人さんですから、季節や天気に合わせて、勘で調整されているところもあるでしょうし、写真があった方が、作業の具合が分かりやすいのではとお話ししましたら、ご納得いただけまして、後日、写真を持ってきてくださることになりました。
数ヶ月後、娘さんが、パートの合間に写真とレシピを持って、お越しくださいました。
レシピを見ますと、余白に説明が追加されていました。
父娘で、あーや、こーやと、書き足されたそうです。
お預かりした原稿を元にレイアウトを組みまして、何度か校正を重ねていましたら、娘さんから、「1冊だけ印刷することは、できますか」と、電話がありました。
「できますけど、どうされたんですか?」と、お聞きしましたら、「お父さんが和菓子を作ってる横で、写真を撮ったりメモしたりしているうちに、『私が作りたい、私が継ぎたい』と思うようになり、家族と相談して、お店を継ぐことにしたので、私の分を1冊だけ作りたいんです」と、おっしゃいました。
それを聞き、ものすごく複雑な心境になりましたが、「この決心ができたのは、冊子を作ろうと思ったからなので、感謝しています、見積もり通りに請求してください」と言われ、いろんな面で、ホッとしました。
お父さんは、昨年お亡くなりになりましたが、娘さんは持ち前の笑顔で、お父さんの味を引き継いでおられます。
初盆に、ふと思い出しました。










