自叙伝

国税調査の調査員の方が巡回中に、たまたまウチの看板を見られたそうで、「本は作れますか?」と、尋ねてこられました。

その方のご主人さんが、自叙伝の印刷先を探しておられて、こないだも、東京の出版社まで行ってこられたそうですが、なんか、しっくりこなかったそうです。

本は得意なので、「できますよ。」と、お答えしましたら、喜んで帰られまして、後日、ご主人さんが、原稿を抱えていらっしゃいました。

このお客様が作りたかったのは、仕事史で、入職してから定年退職までの、約40年にわたる日記を元に、ワープロで執筆された原稿を見せてくださいました。

自叙伝の問い合わせやご依頼は、たまにございますが、何のために印刷されるのか、その目的がよくわからないものが、たくさんございます。

そのような場合、こちらからは制作上のご提案などは特にせず、注文された通りに組んで納品しておりましたが、このお客様の原稿は、「なんや、波乱万丈で、ドラマみたいな話やな。」と、目の前のお客さんを放ったらかしにして、読み耽ってしまうほど、面白い本でした。

お客様に、『この本を、誰に読ませたいのか』を伺いましたら、「誰彼なしに配るんではなく、自分を理解してくれている、大切な仲間に読んでもらいたい」とおっしゃいました。

【誰に】【何を】【どのように】が明確になっている仕事は、ブレないので、安心して仕事に没頭できますし、何より、「この面白い本を作りたい!」と、職人根性に火が点きました。

原稿には、写真や図がたくさん入ってましたので、「ウチにご依頼いただけるのでしたら、できるだけ綺麗に印刷したいので、元の写真かデータをご支給ください」と、お伝えしました。

そして、原稿の文章に、少し波がありましたので、「読み易くするために、編集させていただきたい」と、ご提案しましたら、「そういうところを探してたんや!」と、その場でご注文くださいました。

制作は、お客様からいただいたワープロデータを組版アプリに流し込みながら、「読み易く」を意識して編集し、事象など、気になるところは調べながら作業しました。

装丁は、本文校正の終盤、原稿を最後まで熟読し、お客様と意思の疎通が出来るようになってから始めましたので、内容を盛り込んだデザインができたと思っています。

制作には、とても時間が掛かってしまいましたが、700ページほどの長編となった本を納品しましたら、とても喜んでくださいました。

たまたま、このお客様とは共通の知人がおりまして、その方から、「内容は硬かったけど読み易いから、徹夜してしもうたわ」との感想を聞き、嬉しかったです。

この仕事がご縁となり、このお客様には、ご近所付き合いのように、仲良くしていただいています。

ちなみに、この仕事の終盤に、出来の悪い脳みそを酷使したせいか、はたまた、肩がこりすぎたせいか、生まれて初めて蓄膿症になりました(チクナインを飲んだら、すぐに治りました)が、こういうお仕事は大好物です。